ソムリエの
お話し
SOMMELIER


22 ワインを振動から守ることの重要性

こんな経験はありませんか?

「同じワインを何本か購入し、すぐに抜栓して飲んだときと比べ、数週間寝かせてから飲んだときのほうが美味しかった。」
「ワイン生産地で飲んで美味しかったので購入して持ち帰ったら、それほどの感動はなかった。」
特に後者の場合はその場の雰囲気にも影響されるのことなので、ワインの品質の変化については、気のせいかもと結論付けられることが多いかもしれません。

ところが・・・
実は、ワインは意外なほどに振動の影響を受けやすいデリケートな飲み物なのです。

振動がワインの味をどう変化させてしまうのかというと・・・

粒子間の安定性をなくしてしまい、ワイン自体が本来持っていた甘み、滑らかさ、しなやかさを失ってしまいます。
トゲトゲしさ、荒々しさを感じやすくなり、まとまりのない味わいとなってしまうのです。

逆にワインが落ち着きを取り戻したときは、まろやかな甘味、しなやかなボディを持ち、シルキーで美しい余韻を感じられるようになります。バラバラだった味わいがまとまり、それぞれが溶け込みあった一体感のある味わいへと変化します。

ところでワインに与える振動の問題として、第一に輸送があげられます。

ワインが私たちの手元に届けられるまで、特に輸入ワインの場合は長い長い旅となります。
まずトラックで港まで運ばれます。そのあいだのトラックの揺れは、ワインにとってかなり激しいものとなります。
そして船に積まれます。船の揺れはトラックに比べ穏やかですが、長期間の輸送になるのであまり好ましいものではありません。
その後、消費地近くの港まで運ばれると、再び激しい揺れのトラック輸送にバトンタッチされます。

 

一方、船ではなく飛行機で輸送される空輸もあります。船での輸送に比べトータルの輸送時間が短縮されるのでワインにとって多少良い条件ではありますが、結局のところ、トラックでの輸送は避けられませんので、やはりダメージを受けることになります。


ワイン業界の経験則的なものではありますが、実際に輸入直後のワインと、輸入後数ヶ月休ませたワインを飲み比べると、かなり印象が違うものです。
中でも比較的若いワインや高アルコールのワイン、甘口ワインはダメージが比較的少なく、しっかり休ませることで本来の味わいを取り戻すことができます。
ただ、オールドヴィンテージのワイン(古酒)に関しては非常に繊細なので、さらに時間が必要となり、場合によってはバランスを崩したまま戻らないという可能性もあります。

 

 

第二に、ワインセラーの問題があります。

冷蔵庫型ワインセラーにもタイプがいろいろあり、比較的振動が少ない優良なものもありますが、より良い条件での長期熟成を考えた場合、冷蔵庫型ではなく部屋型ワインセラーのほうが相応しいという実験結果があります。
とある長期熟成タイプの高級ワイン数本を、温度や湿度などその他の条件を同一にし、信頼性の高いメーカーの冷蔵庫型ワインセラーと、地下室のワインセラーでそれぞれ別々に約10年間保管した結果、地下室のワインセラーは非常に良い熟成をしましたが、冷蔵庫型ワインセラーは酸化が早く進み、香り、味わいともに落ちてしまっていたという結果です。
扉の開け締めによる温度変化の影響も否めませんが、やはり振動が劣化の大きな要因であるとの見方が強いでしょう。

ワインに求められるのは緩やかな酸化熟成です。

細かな振動が加わることにより、ボトル内にわずかに混入している酸素が撹拌されてワインに細かく溶け込んでいき、ワインの酸化が早まってしまったという見解です。

結果として、熟成させた古酒を最も良い状態で味わうためには、熟成させる前の回復力の十分にある若い段階で輸送し、小さな振動が続く冷蔵庫型ワインセラーではなく、温度・湿度・光などの条件が適した状態に整った、振動のない部屋型ワインセラーに保管するのがベターということになります。