ソムリエの
お話し
SOMMELIER


16 ブショネについて

「ブショネ」という言葉、聞いたことがありますか?


レストランなどでワインをボトルでオーダーすると、抜栓したソムリエさんはコルクの匂いを必ずチェックします。これはコルクにブショネ臭がないかチェックしているのです。

ブショネとはブション(コルク)に起因するワインの劣化のこと。

TCA(トリクロロアニソール)という有機塩素化合物が原因です。TCAはごく微量の含有でも不快な香りと認識できる物質で、濡れたダンボール、生乾きの雑巾のような異臭がします。

TCA発生のメカニズムですが、天然コルクにもともと潜んでいた微生物が、コルクを洗浄する際に使用される塩素系消毒剤と反応し、発生すると考えられています。
主な原因はコルクに違いありませんが、コルクを排除してもTCAが発生してしまうこともあるため、100%コルクが原因と言い切ることはできません。
余談ですが、TCAはワインのみならず、風味の低下した多種多様な食品にも存在することが報告されています。そしてワインがTCAによる影響を受けると、本来感じられるはずの豊かな香りが失われ、味わいはフラットなものとなり、強い雑味が生まれます。残念ながらお世辞にも美味しいワインとは言えないものとなってしまうのです。

実はこのブショネの識別ですが、経験がないと少し難しいかもしれません。
私もワインを扱い始めた最初の頃は、謎の香りでした。ですが一度覚えてしまえば分かりやすい香りでもあります。
私自身現場でワインを扱っていて、30本抜栓したら1本くらいはブショネに遭遇するような気がしています。
以前は確率的に3~8%のワインがブショネと言われていましたが、現在はコルクの処理方法などが改善され、かなり少なくなってきています。ですが残念ながら完全には防止できないのが現状です。

生産者側もブショネに対してはかなり気を使っています。
私が以前に訪問したイタリアのスパークリングワインの有名ワイナリーは、コルクに対してかなり厳しい基準を設け、ブショネの確率を極力ゼロに近づける惜しみない努力を語ってくれました。
また別のワイナリーでは同じワインであっても輸出国によってスクリューキャップワインとコルク栓ワインと両方を生産していました。ワインのタイプにもよりますが、生産者側はリスク回避のため、できればスクリューキャップに変えてしまいたいそうなのですが、ヨーロッパなどの伝統国ではブショネのリスクを考慮してもまだまだコルクが好まれるため、コルクを使わざるを得ないようです。
ちなみに日本でも(近年変わりつつあると感じますが)、スクリューキャップのワインは安ワイン、コルク栓のワインの方が高級感があり美味しいという間違ったイメージが先行し、そのワイナリーでは日本市場に対してはコルク栓を採用していました。
また、とある有名ワイナリーでは、出荷前に多くのブショネが見つかり、出荷を取りやめたり回収した例もあります。ワイナリーにとっては大損失ですが、そのワインを購入した消費者に、「このワインはまずい」というレッテルを貼られるよりは100%賢明な選択です。

ワインは自然からの恵みであり、コルクも天然のもの、完璧ではありません。皆さんがワインを飲んでいて、もしブショネかなと思うワインに遭遇したら、販売元のレストランやショップにぜひ相談されてください。
私はレストランのソムリエとしてワインの状態には細心の注意を払いお客様に提供していますが、「このワインブショネかな?」という疑いを持たれたまま、食事を終えられ、そのまま帰られてしまうことが一番怖いと思っています。そのお客様にとって、そのレストランは美味しくないワインを提供する店という認識になってしまい、二度と足を運ぶことがなくなってしまうからです。ワイン1本の損失と、リピートに繋がるかもしれないお客様の損失とどちらが大きいか…それは言うに及びませんので。

ここまで読んでいただいて、やはりワインは難しいと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
だからこそ、レストランやワインショップにはワインのプロであるソムリエやアドバイザーがいるのです。
ぜひソムリエを利用してください。販売店に相談してください。

ワインは難しい側面を持っていることには違いありませんが、
それ以上に私たちに喜びを与えてくれる飲み物であることも確かです。

皆さまにはぜひ安心して、美味しいワインを楽しんでいただきたいと思います。